アームレスリング元日本代表で、現日本アームレスリング連盟審判長である筆者が、アームレスリングのトレーニング方法を技・テクニック別に実体験をもとに解説します。
本記事執筆にあたり、助言等をいただきました日本代表級選手および指導者の方々には、この場をお借りして心よりお礼を申し上げます。
アームレスリングの三つの技
フックとトップロールそしてサイドアタック
アームレスリングには大きく二つの技があり、それがフック(かみ手)とトップロール(つり手)です。そして、その中間の軌道をとり横方向に一気に倒すサイドアタックという第三の技があります。まずは、それぞれの技の特徴を解説していきます。相手の手を自分より下に落とすフック
こちらが、実際の試合でのフックです。一般的には、手首を巻きつけて力づくで倒す技と誤解されていますが、そうではなく、相手よりも高い位置に手首をストロークし、相手の手を相対的に自分より低い位置に落として倒す技です。
相手の指先を吊り上げ捻り倒すトップロール
こちらが、実際の試合でのトップロールの様子です。トップロールは相手の指先に自分の全身の力を集約し、吊り上げた後に、相手の手の平を回転させて倒す技です。「力がなくても勝てる技」と誤解されがちですが、トップロールに特化したいくつかの筋力が重要で、力がなければ技は決まりません。
腕を固めて一気に横倒しにするサイドアタック
こちらが、フックとトップロールの中間的な軌道と動作のサイドアタックと呼ばれる技です。一見、一直線の単純な技に見えますが、その直線軌道を最後まで押し切るためには、フック系とトップロール系両方の筋力が要求される上級者の技です。
アームレスリングと腕相撲の差異
腕を体幹に固定するか腕を動かすかの違い
アームレスリングと腕相撲は似ていて非なるものです。その最大の相違点は、アームレスリングが最初から最後まで腕を固定し戦うのに対し、腕相撲は腕を動かして「腕の力」で戦うことです。
当然、効率的なのはアームレスリングの動作で、その様子は先の三つの動画をよく見てもらえれば理解できると思います。つまり、アームレスリングにおいては、腕は体幹に固定したまま動かさず、肩関節も動かさず、肘関節も動かさず、動かすのは手首だけです。
写真は、筆者のジム所属のU21全日本チャンピオンの練習風景ですが、図説しているように、肘を支点にし、肩と肘は完全に固定したまま、てこの原理で動作をします。力点(力を入れる部分)は体幹、相手に攻撃をかける部分が腕の先端の作用点です。
そもそも「腕の力」というのは全身の力に比べると非常に小さなものです。腕の力で相手を倒そうとする腕相撲の考え方が、いかに非効率かおわかりいただけると思います。
アームレスリングに必要な力とは
アームレスリングにおける身体の部位の役割を例えると、「腕はコンタクトする固定道具」であり「相手を倒すエンジンは体幹の動作」です。相手を倒す直接的な力は、主に腹部を曲げる動作であり、そのために、まずは腕を固め(肘関節)、さらに腕を体幹に固定する(肩関節)筋力が必要とされます。ですので、アームレスリングで腕に要求される筋力とは「どのような状況でも固定されたまま動かない力」になります。そして、腕の中で、唯一動的な筋力が必要となるのが手首をストロークさせるための前腕筋群です。
それでは、次の項目では、フックとトップロールの技別に必要とされる「体幹の筋力」とその鍛え方、「腕を固定する筋力」とその鍛え方、「手首をストロークさせる筋力」とその鍛え方を個別に解説していきます。
※サイドアタックにはフックとトップロール両方の筋力全てが必要になります。
フックに必要な筋力と鍛え方
大胸筋下部・上腕筋群・前腕筋群
フックにおいて、腕を体幹に固定するために必要な筋力が大胸筋の筋力ですが、なかでも、実戦の角度である、上腕骨が下方にむいた状態で収縮する大胸筋下部が重要になります。あわせて、そのポジションで強く共働する上腕三頭筋長頭の筋力も必要です。
自重トレーニングでは、大胸筋下部と上腕三頭筋長頭を同時に、実戦的に鍛えられる種目がディップスです。肘を開かずに、より実戦的な角度で行うと有効です。
特に、専用の器具がなくても椅子を二つ使うことで行うことも可能です。
フリーウエイトトレーニングでフック強化におすすめな種目が、動画のようなデクライン・ハンマーグリップ・ダンベルプレスです。デクラインすることにより大胸筋下部に負荷を集中させ、ハンマーグリップで行うことで肘を開かずに上腕三頭筋長頭へ負荷を集約させることが可能です。
なお、アームレスリングは片腕で戦う競技ですので、両手で保持するバーベルよりも片手で保持するダンベルのほうが、より実戦的な鍛え方ができます。
フックを強くするために優先的に鍛えるべき上腕の筋肉は上腕二頭筋ですが、なかでもフックで使用する回外動作作用を持つ上腕二頭筋短頭を強化するべきです。
このために、自重トレーニングで最適な種目が逆手懸垂(チンニング)です。通常の懸垂(プルアップ)は肩甲骨を寄せて背筋群を使って行いますが、こと上腕二頭筋をターゲットにしたチンニングでは、背筋群を動員しないように背中をやや丸め気味に行うと有効です。
また、アームレスリングの上腕二頭筋トレーニング全般に言えることですが、肘関節を屈曲させる動作はそれほど必要ではありません。実戦の角度である肘関節が90度前後の位置で細かく動作を行い、肘関節の角度を維持する筋力を鍛えてください。
ウエイトトレーニングで、フックに必要な上腕二頭筋短頭の筋力を鍛えるのに最適な種目がダンベルカールです。こちらも、ダンベルを挙げることよりも、挙げたダンベルを肘関節90度付近で維持するような鍛え方が実戦的です。このため、やや重めの重量をチーティング動作で挙上し、ネガティブに重量に耐えるようなトレーニング方法をしてください。
フックに必要な前腕の筋力は、手首関節を屈曲させる筋力(前腕屈筋群)です。このために最適なトレーニング方法が各種のリストカールです。
この時に、グリップにテーピングやタオルなどを巻きつけ、直径10cm程度の太さにすることで、フックに必要な握力の一種である「ホールド力」も同時に鍛えられます。
前腕筋群は日常での使用頻度が高く、並大抵の鍛え方では発達しません。筆者の知る日本人世界チャンピオンは、休日にダンベルリストカールをしながら、レンタル映画を二本ほど観ると言っていました。そこまでいかなくても、本格的にアームレスリングのフックを強くするためには、一日に数百回~数千回のリストカールが必要です。
フックの力を鍛える器具
フックハンドル
フックハンドルは海外では「デボンララット・ハンドル」と呼ばれており、アームレスリングの神様と言われる世界チャンピオン、デボン・ララット選手の考案で開発されたトレーニング器具です。
こちらは、JAWA所属選手によるフックハンドルを使った実際のトレーニング動画です。
通常の握り方で小指側を集中的に鍛えられるほか、上下逆にグリップすることで高い位置でのフック強化=トップロール対策にもなります。
▼入手方法
フックハンドル
トップロールに必要な筋力と鍛え方
背筋群・上腕筋群・前腕筋群
トップロールでの肩関節の固定には、大胸筋に加えて背筋群が需要な役割を果たします。特に、実戦において相手を吊り上げた後の腕の固定は広背筋側部が中心となります。このため、最も適切な背筋トレーニングは順手懸垂(プルアップ)になります。
より実戦的に鍛えるためには、フルストロークでの懸垂は必要なく、肘関節が90度前後のポジションで小刻みに上下するような動作が有効です。
具体的におすすめの懸垂トレーニングが、この動画のようなウエイトをつけて、さらに肘関節を90度に保ちながら二段バーを移動するようなやり方です。
ウエイトトレーニングで、トップロールに必要な背筋の筋力を鍛えるのに最適なトレーニング方法がワンハンドダンベルローイングです。こちらもフルストロークで行う必要はなく、肘関節が90度前後のポジションで小刻みに上下運動をしてください。重量の目安としては、自身の握力の50%程度(おおよそ40~50kgでしょうか)で行うのが最適です。
これは、実戦において自身の攻撃力で自分の握りが外れるのを防ぐトレーニングにもなります。
トップロールに必要な上腕二頭筋に筋力は、実戦の角度であるハンマーグリップでの筋力になります。こちらも、肘関節を屈曲させることではなく、高重量をいかに保持するかという鍛え方をしてください。使用重量の目安としては、実戦で腕にかかる重量、およそ体重の半分程度です。
なお、高重量ハンマーカールでシャフトを強くグリップすると(特に薬指と小指で)、手首関節の損傷につながりますので、この写真のように親指と人差し指で作った輪の上にダンベルプレートを乗せるような保持方法をおすすめします。
トップロールで最重要となる前腕の筋力は、手首関節を外転させる(親指方向に立てる)腕橈骨筋の力で、鍛えるのに最善の方法がリストハンマーです。こちらも、特別な器具は必要なく、ダンベルの片側のプレートを外して行うことが可能です。
なお、反復回数の目安として100回前後が適切です。
トップロールの力を鍛える器具
トップロールハンドル
トップロールハンドルはアームレスリングの吊り手に重要な「ヘッドの筋力」および「親指の壁の力」を鍛えるためにデザインされたトレーニング器具で、これらの重要部位に集中的な負荷が加わるように卵形にデザインされています。
JAWA所属のアームレスリング選手による使用方法の解説動画がこちらです。あわせて、ご参照ください。
トップロールハンドルは、人差し指付け根付近に集中的な負荷を加えることが可能です。
▼入手方法
トップロールハンドル
親指の壁と呼ばれる力
上腕を外転させないための筋力
アームレスリングの世界で、「親指の壁」や「サイドプレッシャー」と呼ばれている筋力がありますが、これは上腕を外転させない(開かせない)ための筋力です。
サイドプレッシャーに重要なのが肩関節のインナーマッスルであるローテーターカフ(回旋筋腱板)の筋力です。
ローテーターカフには肩甲骨背面から上腕骨に接合している棘上筋・棘下筋・小円筋、肩甲骨前面から上腕骨に接合している肩甲下筋とがあり、アームレスリングで特に重要なのが上腕を体幹前面に向ける肩甲下筋です。
肩甲下筋を鍛えるために最適なトレーニング方法がチューブを使ったインターナルローテーションです。体幹の筋肉を動員しないよう、肩関節だけで動作することがポイントになります。また、肩甲下筋はインナーマッスルですので、低負荷高反復回数でじっくりと鍛えるようにしてください。
一方、親指の壁と呼ばれる力は、端的に言えば前腕を回外させない筋力で、前腕を回外させられる(親指が倒される)と、それが上腕の外転につながり、結果として負けてしまいます。
※フックにおいては適切な角度に自ら前腕を回外させ固定しますが、さらに回外させられると力が入らなくなります。
この親指の壁を守るために必要な筋力が、前腕を回内させる筋力で、リストスピネーションと呼ばれる前腕トレーニングで鍛えることが可能です。
具体的には、写真のようにウエイトに帯などを巻きつけ、回内運動を反復してトレーニングします。
腕相撲が強くなる方法
腕相撲のコツと使う技ごとの筋トレ
腕相撲のテクニック|一撃で技を決める
腕相撲が強くなるために必要な筋肉部位
腕相撲のための筋力トレーニング一覧
腕相撲が強くなるには結局実戦練習が一番
今回は、腕相撲が強くなる方法をご紹介してきましたが、結論を言えば、腕相撲が強くなるための一番の近道は、結局はその道の専門家=アームレスラーと一緒に実戦練習を行い、直接技を教えてもらうことです。
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